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Journalジャーナル

工房長 山本正彦 Vol.1
ただ直すのではない、永く身につけられるものに仕上げる

People | 2019.07.10

アイデクトで貴金属装身具製作技能士一級として、東京・日本橋にあるアイデクトの工房にて工房長を務める山本正彦。ジュエリーデザイナーの知人の影響で、ジュエリーへ興味を持ち始め、その後、現代の名工と呼ばれる親方に弟子入り。31歳という年齢で国家資格でもある貴金属装身具製作技能士一級の資格を取得し、アイデクトの技術を語る上で欠かせない存在となっています。 Photo: Ikuo Kubota (OWL) / Text: Tomoko Katoh

「リペアで始まり、リペアで終わる」を大切に

もともと、ものづくりが大好きだった山本。社会人としてスタートしたころは、化粧品会社で商品開発に携わっていました。化粧品会社で勤務していたころ、ジュエリーデザイナーの知人を通じジュエリーの世界を知り心を奪われ、現代の名工である親方に弟子入り。すべてが未経験ながら、24歳でジュエリーの世界に飛び込むことに。そこは、マニュアルもなく、技術は「見て覚えろ」というスタイル。親方が食事に出ている時間に、こっそりと作業工程を覗き込んでは勉強する毎日。当時、手取りで6万円ももらえない状況でしたが、バーテンダーのアルバイトなどをしながら必死で技術を習得してゆきました。

そこで技術を培い、31歳で貴金属装身具製作技能士一級に合格。同資格は50〜60代の合格者が多く、山本は異例の若さだったとも言えるでしょう。その後独立し、「平和堂貿易」や「ミキモト」の特別注文の手づくり品などを製作。貴金属装身具製作技能士一級として、着実にキャリアを重ねていきます。

そして時は流れ2007年、立ち上げから間もないアイデクトに入社することに。クラフトマンのスキルアップや加工基盤の構築、オーダー品の製作、クラフトマンたちのマネジメントなどに、自身の知識と経験を少しでも生かせればと思い入社を決意。「当時は加工事故が多い状況でした。しかし、リペアを担当しているのはアルバイトがほとんど。社員として、しっかり基盤を固めようと思いました」と振り返ります。「『リペアで始まり、リペアで終わる』という言葉がある。手づくり品で身につけてきた経験と技術で、アイデクトのサービスの入り口を固めました」。山本は、目に見えないクラック(裂け目・ひび割れ)やたわみ(変形)など、手の感覚で判断します。「顕微鏡では見えない『このままだと割れるかも』という細かい違和感もわかるようになりました」と笑顔で答えてくれました。

想いの詰まった、世界で一つだけのジュエリーをお預かりするクラフトマン

山本は現在、アイデクトにて加工修理全般を担う工房を統括する。工房のスタッフ管理や店頭で行われる実演イベントの開催、ときには接客なども行なっており、お客さまに「職人としての見解・利用価値」などを丁寧にお伝えしています。実演イベントでは、「リペアをしてみたいけれども、通販で購入したものなので相談するのが恥ずかしい」というお客さまもいるようですが、「お客さまが感じている、『恥ずかしい』心理を砕いてあげるのも重要な役割です」とコメント。お客さまのご要望をお伺いし、その都度最適なリペアの提案もしています。

リペアする際は「ただ直すのではなく、永く身につけられるジュエリーにするのがポリシーです」とこだわりを見せてくれました。修理後まで見据えたリペアのご提供がお客さまに喜ばれ、次のジュエリー相談につながっているそう。山本ならではの、心配りがお客さまにきちんと伝わっているのが感じられるエピソードと言えるでしょう。

お客さまが持ち込むジュエリーは、素材や石、デザインが1点1点異なり、ご要望に対応するためには、幅広い技術力が欠かせません。「お客さまの想いの詰まった、世界に1つしかないジュエリーを加工するのは責任重大ですが、その分やりがいもあります」と目を輝かせながら答えてくれました。

それぞれのお客さまのストーリーを大切に

クラフトマンとして、数々のジュエリーリペアを担ってきた山本。印象に残っている仕事について伺うと、「以前、リペアのご相談を承ったお客さまでとても思い入れのある大切なピアスを片方無くしてしまった方がいらっしゃいました。そこで、片耳分のピアスをオーダーで製作。お渡しの際に同席させていただいたのですが、とてもお喜びいただき、職人冥利に尽きるなと心から思いました」と振り返ります。

他にも、お母さまから受け継いだジュエリーをお預かりし、「ここについている傷は、大切な傷なので消さないで欲しい」というリクエストにお応えしてリペアをしたことも。綺麗に仕上げるだけではなく、「それぞれのお客さまの想いやストーリーを大切にし、残すところは残す」の判断ができるからこそ、山本がお客さまから高い支持を得ているのである。

現在は大量生産・大量消費のジュエリーも少なくありません。そんななか、山本は「何世代も続くものを使いたいという方がいるからこそ、オーダーメイド職人がいる意味がある。石は二つとないので、ご縁のある限られた人だけが持つことを許されます。今後は、より手に届きやすいオーダーメイドジュエリーが広がって欲しいなと思っています」とクラフトマンらしい熱い想いを伝えてくれました。

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